お菓子のレシピの材料欄にはあまり書かれない、大切なものがあります。それは、「水」と「空気」です。例えば、焼き菓子やムースなどを作る時、泡立て器で生地に取り込んだ空気も食べているのだと知ります。一方、夏のデザートを作る時、私たちは水も食べているのだと気づかされます。
(↑ぷるんとした食感がおいしいわらび餅)
特に「水を食べる」のだと実感するのは、日本の涼菓、かき氷、わらび餅(もち)、くず餅を作る時でしょう。かき氷は直接「水を食べる」ものですが、わらび餅やくず餅は、水を抱き込んで食べる、お腹にやさしいスイーツです。
「本わらび粉」や「本くず粉」は、日本に自生する蕨(わらび)や葛(くず)の根の澱粉(でんぷん)を取り出したもので、植物性の凝固剤です。
蕨粉はもともと希少で、江戸時代ですでに蕨粉に葛粉を混ぜてわらび餅を作っていたという記録もあります。現在では葛粉も貴重で、国産葛100%の本葛は、西日本の方が手に入りやすいようです。
蕨粉には根から澱粉を取り出す際に使われる石灰の匂いが、葛粉には植物そのものの苦みが多少あります。きな粉の香ばしさや黒蜜の風味がそれらを消してくれます。
水分摂取の必要な日本の夏にふさわしい「水を食べる」スイーツ、わらび餅。イソフラボン豊富な大豆の粉、きな粉をたっぷりかけて、おいしく夏を乗り切りましょう。
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■わらび餅の基本配合■
材料は三つ、わらび粉と砂糖と水です。
三点の“かさ”(容量;ml,cc)の比は、「1:2:3」です。
わらび粉と水の重量(g)比は、「1:6」です。
“かさ”を写真で見てみましょう。
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30g 50g 180g
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わらび粉 : 水 (重量比) = 1 : 6 ※ わらび粉30gで、1~2人分の量。
凝固力は粉によって多少違います。基本配合を知っておけば、お好みで「わらび粉:水」の重量比を「1:4~5」にしてみることもできます。
◆レシピの参考サイト◆
http://www.kokufun.co.jp/recipe/warabimochi.html
(↑山口屋穀粉<京都府宇治市>のHPより)
■わらび粉3種■
大別すると、わらび餅の材料「わらび粉」には、3種類あります。
①=白色。市販されている主なものの原料は、甘藷(かんしょ<サツマイモ>)澱粉(でんぷん)。澱粉はスターチ(英;starch)ともいう。
②=薄い黄土色。5~8%程の本わらび粉配合。主原料は、甘藷澱粉、キャッサバ芋から取るタピオカ澱粉など。
③=灰褐色。100%本わらび粉。
★《追記》 100%本蕨粉の色は、産地、加工法によって異なります。(黒、灰色、茶、白、ピンクなど。) <参考文献> 『プロのためのわかりやすい 和菓子』(柴田書店) ※文末参照。 ①…甘藷澱粉のわらび餅。くせがなく、やわらかくて食べやすい。「水を食べている」と一番感じられる。
②…甘藷澱粉やタピオカ澱粉などに、本わらび粉を配合したもの。牛蒡(ごぼう)のような野趣がほんのり香る。
③…本わらび粉のみで作ったもの。最も粘性が強く、噛み切る最後に小さな歯応えがある。
■本蕨粉100%のわらび餅■(上記の灰褐色の蕨粉使用)
水を加えて練り上げると、どんどん黒くなります。氷水で冷やした後、生地を持ち上げると、「粘性が強い」ことを実感します。
(↑本蕨粉100%のわらび餅:きな粉をまぶす前)
その噛み心地は、とてもやわらかいのに、噛んだ時わらび餅が歯に撥(は)ね返るような感触です。
(↑本蕨粉100%のわらび餅)
本わらび粉25g使用で、2人分(2皿分)出来上がります。あとは、水と砂糖だけ。1人分、500ccのペットボトル飲料の値段位で作ることができます。
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万葉集(7世紀後半から8世紀後半に編纂)にも詠われた蕨という植物は、日本古来のものと思われます。昭和初期まで、長く救荒食物の一つでした。台風、冷害、干ばつ、地震など、日本には災害が多く、保存食料として、蕨の根から蕨粉が作られました。その澱粉と水だけで作った餅は、決しておいしいものではなかったようです。
一方、16世紀半ばから17世紀半ばの記録によれば、蕨餅は塩味のきな粉をかけて食されていました。17世紀半ばには、砂糖入りのきな粉も使われるようになりました。
小倉餡(あん)入りの蕨餅の記録は、現存する文書では、18世紀後半、安永3(1774)年のものが最初と思われます。これは、当時の近衛内前(このえうちさき)公(後の関白)の注文により、京都の虎屋が作ったもので、近衛公が「岡大夫(おかだゆう)」と銘しました。この名は、中国の『史記』の故事や、狂言の伝承による銘と考えられます。
★《追記》 ※ 「岡大夫」は、虎屋の登録商標。 虎屋HP「著作権について」の項参照(↓)。 http://www.toraya-group.co.jp/siteinformation/copyright.html ★《追記》 ※ 狂言では、蕨餅の別名「岡大夫」について、延喜帝(醍醐天皇、在位897~930)が好み、この菓子に大夫(五位)の位を授けたという言い伝えを説明している。つまり、狂言が伝える室町時代にはそのような言い伝えがあったことが分る。なお、醍醐天皇在位の平安時代の史料にはそういった記録はないようだ。 ・°'☆,。・:*:・°'☆。・:*:・°'☆,。・:
◆材料入手先◆
クオカのHP(商品説明とレシピあり)
<わらびもち粉>
粉の郷わらびもち粉200g <わらび粉(並)…本わらび粉配合>
わらび粉(並)200g <本わらび粉100%>
国産本わらび粉100g ※ 袋裏面に、本わらび粉のわらび餅のレシピあり。
◆主な参考文献◆
○
『和菓子さろん 伝統に生きる美と味の世界』 (東京経済)
虎屋に53年勤務し、虎屋文庫長でもあった著者、野上千之氏の、和菓子の菓銘の背景、由来、歴史について調べ上げた一冊。
和菓子を通して日本の歴史や文化を味わう、事典のような読み物。
○
『事典 和菓子の世界』 (岩波書店)
虎屋文庫勤務の中山圭子氏による、身近な和菓子の解説書。あんぱんの項では絵本の『アンパンマン』に触れ、あんみつの項では、漫画『あんみつ姫』に言及し、柿の種や鯛焼きの誕生も語られている。和菓子の主題となる自然の形や文様に関する章では、デザインの理解を深められる。
巻末に索引があり、和菓子の略年表と、和菓子関係の資料館・図書館の一覧もあり、便利。
★《追記》 ○『プロのためのわかりやすい 和菓子』 (柴田書店) Amazon.co.jp ウィジェット 辻製菓専門学校和菓子教授の仲實(なかみのる)氏執筆の、和菓子制作の教科書。餡の炊き方などの基本に始まり、代表的な和菓子の作り方を、カラー写真を作業順に並べて説明。なぜその作業をするのかということまで教えてくれる。 巻末の「和菓子の歳時記」「和菓子の歴史」(年表付き)も、短くまとめられていて、見やすい。索引あり。 ○機関誌
『和菓子』第13号 (株式会社 虎屋 虎屋文庫)
◆ご協力◆
虎屋文庫
http://www.toraya-group.co.jp/gallery/dat_index.html
(↑虎屋のHP内、菓子資料室 虎屋文庫の項)